「遅いなぁ・・・。」
買出しに行った剣心が帰ってこない。
すぐ近くのはずなのに・・・。
まさか、途中で行き倒れてるんじゃ・・・;;
「ただいまでござるー」
堪らず薫が襟巻きを手にとった瞬間、玄関口で声がした。
帰ってきた!
襟巻きを持ったまま、薫は玄関へと急ぐ。
「おろ?薫殿、何処へ?」
薫の持つ襟巻きを見ながら、不思議そうに尋ねる剣心。
別段変わった様子は無さそうだ。
「え…?あ…あぁ、違うの;何処も行かないわ。」
「…?そうでござるか。ならば薫殿、ちょっとこちらへ。」
「何?如何したの??ちょ…剣心、転ぶ…;;」
ぐいぐいと表に引っ張り出された薫は、積もった雪に足を取られながらも必死に剣心に付いていく。
すっかり真っ白になってしまった縁側までやって来て、剣心は足をとめた。
「もぅ…如何したの、剣心?・・・あれ?」
そこに座っていたのは、剣心の頭一つ分くらいの雪だるま。
よくよく見れば、何だか表情があるようで・・・。
「似ているでござろう?」
「え・・・?ええ!?も…もしかして、私?」
「買出しから帰ってくる途中に、積もっている雪を集めて作ったのでござるよ。」
それで帰りが遅かったのね・・・;
剣心があまりにも満足げで嬉しそうなので、それは言わない事にした。
時々、こんな事ですごく喜ぶんだから・・・。
雪で出来た自分と視線を合わせて、薫はふわりと笑う。
「剣心が居ないじゃない。」
「おろ?」
「私一人で縁側に座らせておく気? よし!じゃあ、私が作ってあげる!」
「えぇ!?か…薫殿っ!?」
手ごろな雪をかき集めて、お結びを作るように掌で押し固める。
一生懸命自分の頭を作っている薫を見て、慌てて剣心が胴体を作り出した。
そんな剣心の姿を見た薫は、少し意地悪げに剣心に問い掛ける。
「私って、頭でっかちなの?」
「おろ!?」
「だって、胴体と頭の部分の大きさが変わらないもの・・・。」
「おろろ!?」
剣心の作った雪だるまを見て、薫が不服そうにぽつりと漏らした。
剣心はというと適当な言い訳が見つからずに、ただただ口をもごもごさせるばかり。
「よし!剣心の頭も大きくしちゃお。」
「え!?ひどいでござるよ、薫殿;;」
「ほら、早く胴体置いて!」
「は…はいでござるっ!」
薫にせかされて、剣心は出来たての胴体を薫だるまの横に設置する。
そしてその上に、薫が作った頭の部分が乗せられた。
その表情は穏やかで。
まさに、剣心そのもの。
だが。
「おろろ・・・;;」
一つだけ難点が。
故意なのであろうか・・・?
複雑な気分が剣心を襲った。
縁側に並ぶ頭でっかちな2つの雪だるまを見て、薫は嬉しそうに微笑む。
「なかなかお互いそっくりね。」
「そ…そうでござるな。けど…何やら拙者の頭は、胴体よりかなり大きいでござるよ?」
「あ…あは。気のせいよ、気のせいっ!」
「そうでござるかー?;;」
張り切りすぎて、すっかり大きくなってしまった剣心の頭。
重い頭を胴体が必死に支えている事が目に見て取れる。
そんな事実を笑いで捻じ曲げた薫は、すっと2つの雪だるまの前にしゃがみこんだ。
そして、剣心だるまの鼻をツンとつつく。
「可愛いね・・・」
「あぁ・・・。 ・・・なぁ、薫殿。」
「なぁに?」
「これは…この雪だるまは…。どちらが先に溶けてしまうだろうか?」
思わず彼の方を見た。
彼は真剣に2つの雪だるまを見つめていた。
「そうね・・・。二人一緒に溶けるんじゃないかしら?」
「同時…でござるか。」
「そう。」
「しかし…二人に残された時間の長さは違うやも知れぬ。」
「かも知れないわね。でも…雪って溶けたら水になるでしょう?溶ければ二人とも同じ姿。
溶け合って…一つに重なって、そしていつか空に吸われていく。
そう考えると、もし先にどちらかが溶けてしまったとしても、行き着く先は二人一緒なんじゃないかしら?」
剣心と視線がぶつかる。
彼はひどく驚いた顔。
でも・・・ゆっくりとその口元は緩んで・・・
「そうでござるな。」
いつもの優しい笑顔に戻る。
翌朝、二人の姿は消えていた。
縁側に、2つのまぁるい染みを残して・・・
>>終
2004.12.23