「美味しい!」
眠気も吹っ飛ぶような眩しい笑顔を見せながら、薫殿はそう口にした。
「それは良かった。」
こうまで嬉しそうに自分の作った飯を食べてくれると、こちらにしてみても作り甲斐があるというものだ。
「幸せ…v」
「本当に、美味しそうに食べるでござるなぁ。」
「だって本当に美味しいのよ?」
弥彦がこの家を出て、もう二月ほど。
薫殿と弥彦の、居間での師弟対決は無くなってしまったものの、暖かい雰囲気は依然として消える事は無い。
薫殿は相変わらず元気で、愛らしい笑顔はいつまでも健在。
くるくると変わるその表情に、ただただ驚かされる毎日でござる。
「ご馳走様でした。」
「はい、お粗末様。かっ、・・・薫殿;;米粒が…っ///」
「え///!?何処何処…;;///!?」
明日は筋肉痛になるのではないかというほど、笑いすぎて痛い腹を抱えながら、
薫殿の下唇の少し下についた米粒をそっと手ですくってやった。
そしてそのまま自分の指先についた米粒を啄ばむと、途端に薫殿の頬が紅潮する。
「・・・おろ?薫殿?」
「な…何でも無い///!きょ…今日は暑いわね///!ちょっと涼みに行って・・・」
・・・そういうことか。
「あっ!後片付けは私がするからっ///!絶対置いといてね///!すぐ戻るか・・・」
その華奢な身体いっぱいで自分を意識されて、放っておく訳が無いでござろう?
薫殿の足が逃げにかかった瞬間、二の腕を掴んで自分の方へと引き寄せた。
揺れる黒髪の僅かな隙間から垣間見える、困ったような顔にまたこの胸は疼いて。
随分と欲深くなったものだな…なんて、自身を客観的に視察して何とか冷静を装っている浅ましい自分の存在に気付く。
「け…剣心・・・;;///」
薫殿は少し身体を強張らせて、声を搾り出すようにそう嘆いた。
後ろから薫殿を抱きしめた為に表情こそ読めないが、身体の前で絡めた指先から薫殿の鼓動が伝わってくる。
「薫殿。」
「は・・・はい;;///」
わざと唇が耳に触れるか否かの距離で、薫殿の名前を呼んだ。
その場所に君が弱いのを知っていながら。
「今日は天気も良いし。後片付けが終わったら、買い物ついでに散歩でもいかがでござるか?」
「行く!・・・・・・っ///」
薫殿が気を許して振り向いた瞬間に、その可愛らしい唇を塞ぐ。
こんな甘い手に引っかかってくれる、君が好き。
「ご馳走様。片付けは拙者が済ませるから、薫殿は支度をしておいで。」
「ぅ…///悔しいーっ///剣心の馬鹿ぁっ;;」
そう言って薫殿はわざと大きな音を立てながら、ささやかな抵抗と言わんばかりに廊下を走っていった。
急にすっきりしてしまった胸元に少し寂しさを感じながらも、食器を重ねて井戸へと向かう。
指先の僅かな温もりと柔らかい感触は、冷たい井戸水に溶けていった。
再び、君に温められる事を祈りながら
>>終
御題提供:さやか様
2005.1.13