闇夜に浮かぶ、まぁるい月

こんなに綺麗なお月様が出たのは久しぶり

そんな不思議な月に目を奪われた私に、彼は言った。


「薫殿、今夜は月見酒など如何でござるか？」と。





「はい、薫殿。」

「なぁに？今日は珍しくお酒を勧めてくれるのね。」

「薫殿もいくら何でも猪口一杯くらいでは酔わぬでござろう？」


くすくすと笑いながら彼は言った。


「ぅ…；；もー///これでも最近は飲み過ぎないように気をつけてるの！」

「そうでござったか。」

「あっ！嘘だと思ってるでしょう？」

「おろ；？そんな事無いでござるよ；；」

「本当に？」

「本当に。」


今日の彼は何処か気分が良い様で

こんなに楽しそうにお酒を嗜む彼を、久しぶりに見たような気がする。


月見酒と言ってもほぼ寝酒のような物だから、お酒の肴など用意していない。

なのにゆっくりとは言え大量の酒器を次々に空にしていく彼は、最早ザルを通り越してワクである。


「剣心。アテ無しでそんなに飲んだら、胃壊しちゃうわよ？」

「おろ？あぁ・・・。いや、何だか今日は酒が美味くて・・・。」

「そりゃぁね。こんなにグイグイいくんだもの。」


空になった酒器を盆の上に乗せながら、薫がふわりと笑った。


「少し前まで…あまり酒が美味いと感じられなくて、あまり自分からは進んで飲まなかったのだが・・・。
何だか最近、無性に酒が飲みたくなる時があるんでござるよ。」

「そうなの？」

「あぁ。…特に薫殿が側に居ると・・・」

「え…？きゃっ；」


いきなり腕を引っ張られて、薫の身体は流れるように剣心の腕の中へすっぽりと収まる。

そしてクッと顎を引き上げられたかと思ったら、唇を塞がれてそのまま酒を流し込まれた。


「っ・・・ふ///」


酒の通った後の喉が焼けるように熱い。

ほんの少しの量なのに、まるで升一杯を一気に飲みほした時の様に、意識が朦朧として頭はクラクラする。


「たまには良いでござろう？」

「馬…鹿///もう飲めなっ・・・ん///！」





闇夜に浮かぶ、まぁるい月。

こんなに綺麗なお月様が出たのは久しぶり

そんな不思議な月に目を奪われた私に、彼は言った。


「満足するまで酔わせてあげる」と。


そして逆光で表情が読めなくなってしまった彼の頬に手を添えて、私は言った。


「あの月が姿を消すまで・・・」と。




>>終


お題提供：夢月　閏様
2004.12.13