私とあなたが過ごす初めての夜が
きっとずっと、これからも変わらず続いて行く二人の始まりで。
そう思えばこの初めての夜は
私とあなたの、始まりの夜なのかもしれない。
「このような時にまで、薫“殿”はおかしい?」
そう言った彼が、流れるような動きで私の首元に吸いついた。
なれない状況に頭が真っ白になっているのと、突然の出来事でびっくりしたのと、彼の動作が手慣れているように見えたのとで、私は実に微妙な反応をして彼から身を引く。
そんな自分がいかにも緊張しているようで、余裕がなく、男慣れもしていない様子であるから、ひどく間抜けなものに感じてしまった。
「おろ。薫殿、逃げないの。」
「に、逃げてません!」
そう言いながらも私の頭の中を駆け巡るのは、反射とは言えなぜあんな反応をしてしまったのかという後悔の念。
もっとしおらしく、それなりに余裕を持って臨むはずであったのだ。
それなりの、心構えだって持ち合わせていた。
しなやかに、身体の動きもやわらかく。
それこそ一言で言えば、女らしく。
ついさきほどまでは、そのような理想を演じる事ができると思っていた。
しかしながらいざ布団の中に引きずり込まれて、今までも数えるほどしか合わせた事のない彼のくちびるの感覚が身体中を走り抜けると、
照れのせいか緊張のせいか身体は燃えるように熱く火照り、しかし指先の熱は消え、頼りない肩が小刻みに震えだす。
そして、薄布一枚の隔たりさえない状態で身体を合わせているのだから、そんな自分の様子が彼に伝わらないはずもなく。
案の定、少しだけ身体を剥がした彼が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「怖い?」
「…怖くない。」
「言うと思った。」
「な、ら…聞かないで…っ」
情けなくも震える声。
すべてを理解したように、やわらかく微笑む彼が憎い。
雨のように降り注ぐ口付けが、微かにきわどい部分に触れる。
そのたびに疼く身体の奥に、じんわりと熱が沁み渡った。
持ち上げられた両足と、圧迫された下腹部と。
滴り落ちては私の脇腹を伝う彼の汗と、揺れるたびに襲われる切なさと。
私の知らない大人の男の顔をしているかと思ったら、次の瞬間には優しい顔をして。
艶めいた言葉で私を攻めたてたかと思えば、いつの間にか無邪気な顔で私にすり寄っている。
そのとき素直に、いとおしいと思った。
私とあなたが過ごす初めての夜が
きっとずっと、これからも変わらず続いて行く二人の愛の証明で。
そう思えばこの初めての夜は
私とあなたがはじめて、素直になれた夜なのかもしれない。
>>終
御題提供:ゆーき様
2009/04/29
色んな意味で、はじめての夜。