「はぁ…残念。久しぶりに剣心の風呂吹きが食べられると思って、楽しみにしてたのに…。」
「まぁまぁ、薫殿。こんな日もあるでござるよ。」
剣心はまるで赤子をあやすかのように、ぽんぽんと薫の頭を撫でてにっこりと微笑む。
そんな剣心の仕草に嬉しさを感じつつも、やはり何処か腑に落ちない薫は
弛んでいる剣心の襟巻きを巻きなおして、ぷうっと頬を膨らませた。
「だって…。今日に限って、どこの八百屋さんも大根置いてないなんて。」
「うーん…野菜と言うものはやはり自然の産物でござるからね。とれる日もあれば、とれぬ日もあるでござるよ。」
八百屋に無かったのは、何も大根だけではない。
蕪も冬瓜も、今日に限ってどこにも無かったのだ。
「ついてないわ・・・。」
「ははは。折角こうやって買い物に出たのに、手ぶらで帰るのも何やら物足りないでござるな。」
「あーぁ・・・」
薫はため息をつきながら、きゅっと剣心の着物の袖を掴む。
無意識かそうでないのか、薫はその掴んだ袖をぶらぶらと振り始めた。
「薫殿、少し回り道をして帰ろうか。」
「え?」
「今日は天気も良いし、幸か不幸か重い荷物も無い。」
「…悪かったわね///いつも纏め買いの荷物、全部持たせて。」
「い!?いや、そうではござらん!ただ、折角でござるから少し散歩を・・・」
慌てて取り繕う剣心の袖をそっと離した薫は、そのまま剣心の指を絡めとる。
驚いて少しだけ赤くなる剣心以上に真っ赤になった薫は、剣心に向き合うようにその肩にこつんと顔を沈めた。
「散歩…連れて行ってくれるんでしょう?私、行きたい///」
「薫殿・・・。」
「花が見たいな。どこか花が咲いてるところに行きたい。」
「花…でござるか。今の季節には、ちと難しいでござるなぁ。」
ははは。と軽く笑いながら、剣心は薫の手を柔らかく握りなおす。
その仕草に薫も気付いて、また少しだけ頬を赤らめた。
「今の季節だから、見たいの。剣心、花の匂い探してみて。」
「花の匂いでござるか;;?拙者目と耳はそこそこ自信があるが、鼻は…;; ・・・まぁ2人で探しに行こうか。」
まだまだ頬を掠める空気は冷たいけれど、繋いだ手から伝わる相手の温もり。
ほらそこに。
小さな小さな蕾みが、まさに今膨らもうとしている。
道端に残る雪が溶けて、春がやって来るのは
もう少しだけ、先のお話。
>>終
御題提供:月乃様
2005.2.26