「・・・暑い」


「・・・薫殿、それ禁句」


「だって暑いんだもの。」


「というか、薫殿が言い出したんでござるよ?”今日は暑いっていうの禁句ね!”って。ついさっき」



図星を突かれて言葉に詰まった薫は、暑さの所為もあるのか、全ての苛々をぶつけるが如く剣心の頬を伸ばしにかかった。

剣心にしてはとんだとばっちりではあるが、顔から判断するに、それほど嫌ではなさそうである。



「剣心が悪いのよー・・・」


「おろ?何故?」



両手で抱え込んでいた薫がぴたりと大人しくなったかと思えば、今の台詞。

さっぱり訳が分からずに尋ね返してみると、ぷっくりと頬を膨らませた薫がぱっと顔を上げた。

途端に剣心の瞳がどよめく。



「この緋色の着物と、髪!!」


「ええええ;!?薫殿、そこを言うんでござるか!?」


「もー;!いいのっ!とにかく暑いの!!」


「でも昨晩は、拙者の髪の色が好きだと言って・・・」


「ちょ・・・///!何言い出すの、馬鹿;///!」



昨夜はあんなに可愛かったのに・・・

頭の中を巡り巡る昨夜の記憶を一つ一つ吟味しながら、そんなことを思った。

もちろん顔には出さず。


目の前にいる御仁は、既に思考回路が破裂しているようだけれど。



「そぉだ!剣心も涼しげな髪形にすればいいんじゃない?」


「・・・嫌・・・でござる」


「な;!まだ何も言ってないでしょう;!?」


「薫殿の言いたいことは大体見当がつくんでござる;どーせ拙者の髪を薫殿みたいに・・・」


「なーんだ、分かってるんなら話は早いじゃない。じゃあさっさと・・・」


「お断り致す。」


「意地悪ー!いいじゃない、別に!」


「そんなに暑いんなら、脱げば良いでござろ?」


「おっ;///女は男の人みたいに、ぽいぽい脱げないの!」


「しかし、拙者の前ではよく脱いで・・・」



正面から後ろ髪に伸ばそうとする薫の両手を剣心が必死に抑えながら繰り広げられる、攻防戦。

しかしながら剣心の最後の台詞で、微妙な均衡が崩れを見せた。



「っ・・・きゃ;///!」


「おろ?」


ド サ ッ ・ ・ ・ 


動揺した薫が支えにしていた膝を滑らせて、そのまま剣心の懐へ。


そして両手が塞がっていた剣心は薫の勢いをそのまま受ける形となって、現在に至る。



「偶然?それとも、わざと?」


「ぐ、偶然に決まってるでしょう;///?」


「そうでござるかなー?」


「剣心があんなこと言うから・・・;///」


「あんなことって?」


「・・・っ;///馬鹿ー!」



仰向けになった剣心の上に、覆い被さるようにして収まる、薫の身体。

照れ隠しの”馬鹿”は、薫の白旗の合図。

偶然なのか、それともどちらかの意図が働いたのか。

どちらにせよ、結果的には剣心の勝利となったようである。



「そういう髪形は、薫殿がするから可愛いんでござるよ。」


「・・・子ども扱いして」


「おろ。・・・拙者真剣に言ったのに。」


「・・・声が笑ってますー」



何を言ってもつーんとした対応を見せる薫。

負けたのがよほど悔しかったのか、今は何を言っても無駄なようだ。

こうなってしまったら、薫の機嫌が直るのをひたすら待つのみで。

でも別に我儘とかそういったものではなく、これも薫の愛すべき点というもの。



とりあえずは、“その髪形だとうなじが見えるから”ということは禁句にして



ゆったりと彼女の機嫌を直しにかからねば・・・でござる。





>>終


2006.5.26