戸棚にずっと置かれたままの、一つの箱。
今まで何度か気になってはいたものの、それを開けてまで中身を見ようという気は起こらなくて。

しかし、今日は違う。
丁度する事もないし、剣心はさっきからお夕飯の準備に付きっきりで相手にしてくれないし。
もう、一人で見ちゃうんだから。
剣心のばか。


上質な和紙で作られた箱に両手を添えて、ゆっくりとそれを戸棚から引き出す。
どこかで見たことあるような無いような・・・。どこだっけ?

まぁいいか。 そう思いながら、いざ蓋に手をかけて
勢いよくその蓋を取り払う。








「あーーーーーーっ!!!」





箱を抱えて一目散に走る行き先は、もちろん剣心のいる台所。
箱の中身が飛び出ないように、なるべく中身への振動を抑えて走る。


「剣心!」


そこには良い匂いをさせながら、煮付けの味見をしている剣心の姿。


「あ、薫殿。味見するでござるか?」

「する!するけど、それより先にこれ見て!」

「おろ?その箱は?・・・どこかで見たことあるような・・・」


眉間に僅かな皺を寄せながら、そぅっと箱の中を覗いた剣心は、その箱の中身に目を丸くした。


「お゛ろ゛ーっ!?薫殿っ;;これは・・・っ!!」

「ね、吃驚でしょう!?だって光ってるもの!」


薫が大事そうに抱えている、箱の中身。
それは青く光り輝く、二つの餅。


「カ…カビ…;;正月にもらった時のまま、忘れていたのでござるなぁ;;」

「こんなカビ見たことないでしょう?だって白いお餅が青色よ?」


正月に出稽古先から沢山もらったものの中に、確かにあったような気がするこの箱。
大量の頂き物を恵や左之助や妙にまでもお裾分けしたにもかかわらず、消費するには随分の月日が費やされた。
それでも毎日朝昼晩餅を食べてまで一つずつ消費したのに。
まだこんなところに残っていたとは。


「うーわー…どうしようか、これ。」

「ねぇ、食べれる?」

「だ、だめでござる!死ぬでござるよ!?」

「死ぬわけ無いでしょう;;ただカビだらけのお餅って、どんな味がするのかなーっと思って。」

「・・・あ!良い事思いついたでござる。」


薫の手からひょいと箱を取り上げた剣心は、きっちりと元のように蓋を閉じてそれを綺麗に風呂敷で包む。
そしてそれを居間の隅に置くと、不思議そうに見上げる薫に向いてふわりと微笑んだ。


「これは左之にやろうと思って。」

「え゛!?」

「いや、左之には最近随分世話になっているでござるからなぁ・・・。ほんの礼に。」


それ剣心がやると、冗談ですまないわよ・・・
そう言いたいけど、言えない。
だってその笑顔が妙に怖いんだもの;;。







後日、神谷家立ち入り禁止令解禁日に早速やって来て、また懲りずに剣心と薫の二人を突付いた左之助が
帰り際に剣心からある風呂敷包みを手渡され、その日からまた左之助は私用で1ヶ月ほど姿を現さなかったのだとか。



>>終

2005.3.16