今更ながら
剣心は天然の色気振り撒き男だと思う、今日この頃。
だって
一週間ほど前、祭り用の金魚を持ち主のおばさんから2,3匹貰ってきて
この間は、傷物で売り物にならないから…って、おじさんから七夕用の笹を貰ってきた。
それだけじゃない。
店を列ねた町を歩けば、おば様方から沢山のお裾分けを頂き
困っている女性を助けたりなんかしたら、次の日には何十倍ものお礼と共にその女性が現われる。
おかげさまで剣心の収穫だけでも、この先生活に不自由しないで暮らしていけるほど。
「薫殿?」
「なぁに?」
「疲れているでござるか?」
「・・・ちょっとね。」
今日もつい先ほどまで、お礼と共に現われた女性の相手をしていた。
朝一番にやって来た彼女は、こちらの都合もお構いなしに昼を過ぎるまで剣心にべったり。
いくら何でも、腹が立った。
それは朝一番にやって来た彼女が、自分の顔を見て嫌な顔をしたからではない。
言葉を濁しながら、剣心がちらちらと私の顔色を伺っていたからだ。
何よ、その態度。
私は貴方にとって、そんなに迷惑な存在なの?
怒らせたら、後々扱いが面倒だから?
嫉妬を何事もなかったように隠せるほど大人じゃないけれど、そんな事で一々駄々をこねるほど子どもじゃないわ。
それくらいの悔しさ、一人で消化する事だって出来るようになったのに。
いつ爆発するか分からない厄介者を扱うような表情の彼に、途轍もなく無性に腹が立った。
「薫殿、拙者買出しに行って来るでござるから。」
「えぇ、ありがとう。」
「暑さにやられたのかもしれぬ、横になって休むと良いでござるよ。」
「分かった。」
何て、嫌味丸出しの返事なのかしら。
剣心が家から出て行ったことを確認してから、ごろりと身体を畳に横たえた。
私、全然成長してない・・・
全然成長できてない。
剣心の目がちゃんと見れない。
どうしていつも、こうなっちゃうの?
こんな調子じゃ、いつこの家を出て行かれてもおかしく無いわね。
だって、こんなに面倒な女。誰も好き好んで相手にしたりしない。
何だか最近、ずっとこんな調子。
大事なものは・・・いつだって失ってから気づくんだから・・・
ころん・・・
微かに耳に響いた下駄の音
一瞬、空耳かと思った。
だって、あの人がこんなに早く戻ってくるなんて思わなかったから・・・
ひょっこりと顔を出した剣心を見て、慌てて身体を起こす。
すると剣心はにっこり笑って、ゆっくりと部屋に入ってきた。
「か…買出し、もう終わったの?」
「いや、まだでござる。これから行って来るでござるよ。」
剣心の行動の意味が分からない。
目の前でずっとにこにこしている剣心にどう反応してよいのか分からないでいると、
剣心は後ろ手で隠し持っていたものをずずいと私の目の前に差し出した。
瞬間、ちりりん・・・と透きとおるような音が耳に響く。
「え;;?これ・・・?」
「貰い物ではござらんよ。拙者から、薫殿へ。」
「私に・・・?くれるの・・・?」
すると剣心はうんうんとでも言うように、微笑みながら頷く。
手を伸ばしてその風鈴を受け取ると、硝子で出来た丸い輪郭がきらりと光った。
「これだけの為に・・・?」
「8割は。あと2割は財布を忘れて・・・」
驚いていつも財布がしまってある箪笥の小さな引き出しを開けるために振り向こうとすると
「そうそう、そこに・・・」なんて言いながら、剣心の手が伸びてきて私の肩を包み込んだ。
瞬間、気付けば視界は剣心でいっぱいで
唇の柔らかい感触に、思考が止まる。
と、その時。
ぽろり
剣心の懐から財布が零れ落ちた。
「おろ。」
「あっ///・・・あーっ///!そうよ、風鈴買ったんじゃないっ///」
「おろろ。拙者てっきり忘れたと思っていたでござるよ。」
「そんなわけないでしょう///!?こら、待ちなさい剣心!」
「では今から買出しに行って来るでござるから!留守番しっかり!」
そう言うや否や、神速で家を飛び出す剣心。
悔しい・・・;;またしても一本取られた。
でも、まぁ今は敵わなくてもいいか。
剣心から初めて貰った贈り物に向かって、それを揺らしながら薫はふわりと微笑んだ。
待っててね。
いつか必ず良い女になって、貴方を見返してやるんだから。
>>終
2005.3.28