合わせたくちびるから零れ落ちた吐息が、予想していた以上に艶めいたものだったから驚いた。
頬がじりじりと熱く、何とも言いがたいこの状況。
恥ずかしいこと、この上ない。

くちびるが離れたあとは、じっと彼の胸元を見つめていたのだけれど、なかなか顔を上げない自分を見て仕方ないと感じたのだろう。
彼は私の顔を無理に上げさせるでもなく、私の名を呼ぶでもなく、ただ静かに私の耳元にくちびるを寄せて啄ばんだ。
その瞬間にまた、私の頬は赤くなる。

何も言わず、何も求めず。
私の二の腕をしっかりと掴み固定した彼は、ただひたすらに私をくすぐり喜んでいる。
彼のくちびるが私の肌に触れるたびに、心臓がきゅうっとしめつけられるような心地がするのだ。
熱くて、視界がぼんやりとして、少しだけ苦しい。

「剣、心」
「うん」
「そろそろ……」
「うん」

そろそろ勘弁して欲しい。
そう思うのだけれど、彼は「うん」と返すだけ。
それでも私の胸元にすりよって心地良さそうにしている彼を見ていると、私の心も何だか穏やかになってくるという不思議。
ゆるりと倒れた身体を起こす気さえ奪われて、私はそっと目を閉じた。

こんな私だけれど、あなたに何かをしてあげられているのだろうか。
私はあなたに何を与えられるのだろうか。
あなたは私に何も求めてこないから、その辺りがいつも分からない。
あなたの傍にいる人は、本当に私でよいのだろうか。

難しいことを考えるのは苦手だから、だからあなたも簡潔に返してちょうだい。

「私のこと、すき?」
「…………」
「こういうのは聞いた方が恥ずかしいのだから、さくっと返してちょうだい。」
「……今更すぎて、一瞬思考が止まってしまった。」
「聞いてみたくなることも、たまにはあるでしょう。」
「それは普段の拙者に、至らぬ点があるということで?」
「別にそういうわけではないけれど。」
「とは言えど、そんな簡単な言葉一つで表せるものでもないでござるよ。」

そう言って私の隣にごろんと寝転がった彼は、私の目をじっと見つめてにっこりと笑った。
その笑顔は、ずるい。
うやむやにされても、文句が言えない。

「薫殿」
「なぁに?」
「すき」
「……本当に?」
「本当に。」
「私もすき。」
「おろ。珍しく、素直。」
「シメるわよ」
「おろ。」

ほら、分かったでしょう。
たまには言葉も必要なのよ。

少し照れているらしい彼。
私がその頬に口付けたら、きっともっと照れてしまう。
自分が優位でなかったら、あなたはいつもそうなのよ。
それを知っているから、その顔がたまらなくいとおしいから、私はたまにあなたをいじめたくなってしまう。

「だいすきよ」

ほらやっぱり、赤くなる。
その顔が、どうしようもなくすきなのよ。


>>終

2011.02.14

♪シャララ・素敵にキッス♪
バレンタイン・キッスといえば、国生さんでしょう!