「嬢ちゃんって、可愛いよなー。」

「・・・おろ?」

「って、街の連中が喋ってやがったんだよ!俺じゃねぇ!」

「ほーぉ・・・。」

「本当だって!何だその疑いの眼差しは!」

「別に疑いの眼差しなど、向けてはござらん。」


す・・・すねてる・・・。


ぽかぽかと暖かい日差しを受ける縁側で、何やら楽しそうに世間話をする男が二人。

羊羹片手に意気込む左之助と、茶を啜りながら話をさらりと流していく剣心。

意気揚揚な左之助に対して、剣心の表情は何処か複雑で。

そんな剣心の珍しい反応に、左之助の勢いはどんどん増していく。

左之助は皿の上にあった最後の羊羹に勢い良く楊枝を突き刺して、剣心に言い放った。


「剣心!!!」

「左之・・・、それ拙者の羊羹・・・;」

「早くガキ作っちまえ!!!」


シュッ・・・・


逆刃刀を僅かの距離で左之助の喉元にあてがい、剣心はにっこりと笑う。


「誰と・・・誰の?」


笑ってる!笑ってるけど、目が笑ってねぇ!!!


「ってゆーのは、軽ーい冗談で。」

「そうでござったか。」


あーおっかねぇ、おっかねぇ;一々そんな物騒なモン出すなよ・・・。


剣心が逆刃刀を鞘に収めたのを確認してから、左之助は一つ咳払いをして再び話し始めた。


「嬢ちゃんは、お前にとって何なんだ?」


「先程と言っている事が全く違うではござらんか。」


「っかー!!揚げ足取りはいいんだよ!何なんだ?ん?」


「ふー・・・。お主も好きでござるなぁ。」


「いいから話せや。俺らは親友だろ?」


「何か違うような気がするでござる・・・。」


「あぁ!?」


「あ・・・、いや・・・;;」


剣心は仕方ないと言ったように、ふーっと一つ大きなため息をすると、手に持っていた湯のみを盆の上に置いた。

そして、固く閉ざしていた口をゆっくりと開く。


「薫殿は・・・、拙者にはちと眩しい御仁でござる。」

「ん?」

「拙者に向けられる笑顔や、優しさや、温もりが…。時々・・・少し、眩しく感じられる時がある。」

「それは、おめー…。自分の過去を引きずって、そう思ってんのか?」


その言葉に、剣心は左之助に力無く微笑んで見せた。


「拙者が…側にいると、どうしても…薫殿を闇に引き込んでしまいそうで。
だから、なるべく想いが深くならないように・・・。距離を置くように意識して。だが・・・。」


「だが?」


「やはり側にいてもらわねば、拙者は前に進めない。
言うなれば・・・薫殿は、光。
拙者の目の前を明るくして…心を温かくして…拙者を安心させてくれる。」



「・・・・・だーってよ、嬢ちゃん!」


「え゛///!?え゛///!?薫殿;;;!?」


真っ赤になって慌てふためく剣心を見て、左之助は堪らず噴出した。


「嘘だよ。」


「さ・・・・左之っ///!!」


「嬢ちゃんにもそれだけ言ってやりゃー良いんだよ。そうしたら、悪い虫も寄り付かなくなるぜ。」


「左ー之ー///;;!!!」


刀に手をかけた剣心を見て左之助は慌てて一端退くと、咥えていた楊枝を吐き出して剣心の頭をぐりぐりと撫でる。


「じゃーな、剣心。しっかりやれよー!」


「お主は心臓に悪い・・・。」














「光・・・か。」

剣心の青い顔が頭に焼きついて離れない。

一人笑いを噛み締めながら門をくぐり、これで恵への土産が一つ出来たな…と思いながら
左之助は小国診療所へと向かった。


>>終


お題提供:愛桜様
2004.12.16