最近ふと気付いた事。
彼は結構な甘党だと思う。

普段あまりそう言ったところを見せないけれど、実の所相当甘味類が好きなのだと一人確信。
だって、お茶菓子に甘いものを出すと、すっごく嬉しそうに微笑むんだもの。
そういうところを見ると、なんだか凄く可愛らしく思えてきて。

とは言え。
そんな笑顔に流されて、ついついこれを買ってきてしまう自分もどうなのかしら;;

私の手の中にはかすていら。
何だか剣心のためにわざわざ買ってきたみたいで、掌が変な汗をかく。



「剣心ー!ちょっと休憩しない?」

「おろ?では、すぐに行くでござるよー!」



剣心の今日の仕事は屋根の修理。
雨漏りが酷くて今日あたりに修理をするつもりなのだと話すと、剣心がそれを引き受けてくれた。



「おろ、かすていらでござるか?」

「うん・・・好き?」

「好きでござるよ。」



突如向けられた剣心の笑顔に、私の胸はまんまと射抜かれる。
ずるい・・・反則だわ///
ふ…不覚にも、可愛いなんて思ってしまった・・・
もうだめ・・・腰に力が入らない;;

剣心のことをいっぱい知ったつもりでも、実はまだまだ知らないことだらけ
だから毎日私の心臓は忙しなく鼓動を高めている。
初めて見せてくれる表情が嬉しくて、もっともっと見せて欲しくて



「薫殿?どうかしたでござるか?」

「な、なんにもっ///・・・!剣心、口の周りいっぱいついてる。」

「おろ。」



剣心は少し恥ずかしそうに口の周りを一生懸命拭うのだけれど、少し場所が外れていて。
なかなか拭いきれないかすていらの欠片と奮闘する彼を見て、思わず吹き出してしまった。



「ここ! 大丈夫、もうついてな・・・・」



指先でそっと彼の口周りを拭った瞬間、ふわりと包み込まれてそのまま彼の足の間へ引きずりこまれる。
彼が、くてん…と頭を私の肩に乗せた瞬間、燃えるように私の身体は熱くなった。



「…何やら小腹が空いたでござる。」

「え?あ…、まだかすていらあるけど;;///食・・・///」

「うん、それも好きでござるが・・・」



つい、と剣心は器用に唇でうなじ辺りの着物をずらし、ちょうど骨が出ているところに軽い口付けを落とす。
そしてわざとらしく音を立てて吸い上げると、今度は私を抱き変えて唇を求めてきた。



「だ…ッ///だめだめだめだめ、絶対ダメッ;;///」

「何で。」



疑問系でも何でも無い、あたかもそれが当然であるかのような責める口ぶり。
さっきまでけらけらしてたくせに、そんなにすぐに男らしくならないでよ。



「お腹空いてるんでしょ///!?ご飯を食べなさい///!」

「しかし…。据え膳食わぬは男の恥…と言うし。」

「別に無理して食べていただかなくとも、結構ですッ///」



そこまで言ったとたんにすっかり黙りこくってしまった剣心に、
何故だかいけないことをしてしまったような気がして次の瞬間には後悔の波が押し寄せる。
依然私の身体を抱いたまま黙りこくる剣心にすっかり不安になってしまって、
剣心の着物をきゅっと引っ張ると、剣心は私の身体をもう一度強く抱きしめた。



「…ちゃ、ちゃんと言ってくれなきゃ、分からないでしょう///?」



消え入りそうなほどカラカラの声で何とかそう紡ぎだすものの、やはり彼の返事は返ってこなくて。
耐え切れなくなって「剣心」と声をかけようと後ろを向くと、そこには何と満面の笑みを浮かべた剣心の姿。



「薫殿を頂きたい。では、早速!」

「ちょ…///こらッ、誰も『良い』なんて言ってないわよ///!?」

「しかし何だかんだ言っても、結局は拙者の我儘を聞いてくれるのでござろ?」



ぅ・・・・;;///
またわざと・・・・///



彼はやっぱり甘党だ。
だっていつも、こんなに嬉しそうに微笑むのだもの。

だけど残さずキレイに食べてくれるなら、許してあげる。





湿った二人の間を、夕日色の髪が軽やかに舞った。




>>終

御題提供:なずな様
2005.4.15