ある、穏やかな日の昼下がり。

緋色の綺麗な髪に指を絡ませ、くるくると遊んでいた私の肩に手を回し

あなたは私に、口付けた。



「・・・・・・っ」



永く、永く

ゆっくりと角度を変えて押し当てられるそれは、柔らかく

そして温かくもあり、少し意地悪でもある。



「・・・ふ、っ・・・」



私の身体を包み込む貴方の腕の力がだんだんと強くなり、私はとっさに逃げようとした。

それでもそんな私の様子に気付いたのか、私が動くより早く、彼が私の腰を押さえつける。



「違う事、考えてたでござろ?」


「そ、そんなこと・・・」



僅かに唇を離した剣心が、悪戯っぽく微笑みながら私に問い掛けた。

そんな彼に、反射的に反論するものの、何故か口は止まってしまう。

そんな私を見て、彼はやっぱりとでも言いたげに、少し顔を崩した。


相変わらず、辺りは静かで

ぽかぽかと暖かい光が、縁側を照らしている。

ゆっくりと流れていく周りの時間に馴染みつつあった私の視覚は、剣心の普段の動きでさえも鈍らせた。


驚く間も、制止する間もなく

私の背中は、少し冷たい畳の感触を得る。

い草の香りが鼻孔を掠めた瞬間、私の意識はようやく今の状況に追いついた。



「薫殿、久しぶりにこうして二人家にいるというのに。何か不満で?」



私の気が、ここにないことを指しているのは直ぐに分かった。

優しい笑顔とは裏腹に、言葉は皮肉がたっぷりで。

怒って…というか、拗ねているんだと思う。



「久しぶりにこうやって二人で家にいるから、剣心の側でゆっくりしたかったんじゃない。剣心こそ、何か不満で?」



私の首もとに顔を埋める剣心の頭をきゅーっと抱えてそう言うと、剣心が小さく笑を零した。

久しぶりに感じる感触が、くすぐったい。



「明日、また出稽古でござろ?じゃあ、今日は拙者の相手をして。」



そう言うや否や、彼は一旦起き上がって部屋の障子をパタンと閉める。

夜はダメだからって・・・今?



まぁ、いいか。



久しぶりにこうやって二人で家にいるから、剣心の側でゆっくりしていたいし。



ある、穏やかな日の昼下がり。

緋色の綺麗な髪に指を絡ませ、何度も指の間を通す私の髪を静かに解いて

あなたは私に、口付けた。


>>終

2006/04/17