「雨・・・?」
やだ、さっきまであんなに晴れていたのに…。
灰色の空とその空を埋め尽くす雲の隙間から零れ落ちる大粒の水滴に、薫はふーっとため息をついた。
傘なんて持っているわけが無い。
つい先程まで、この空は澄み渡っていたのだから。
とりあえず、前川先生からいただいた大きな風呂敷包みを濡れないように抱え込んで
薫は古びた小屋の軒下に走る。
気に入っていた余所行きの着物が僅かに濡れた。
繊細な布地で出来た着物。
帰ってちゃんと手入れしなきゃ・・・。
シミになっちゃう。
時は夕刻。
辺りはぼんやり薄暗く、吐く息は少しずつ白く舞い上がる。
師走の雨は冷たくて
湿り気を覚えた着物に、薫はその身を震わせた。
ぱしゃん・・・
しとしとと雨が降り注ぐ中、静かに響いた軽快な足音。
「・・・けんしん・・・?」
「薫殿…。ここに居たのでござるか。」
大きな傘をさしてはいるけれど、彼は全身ずぶ濡れ。
きっと走ってきてくれたのね。
胸元を濡らしている正体は、貴方の汗でしょう・・・?
「いきなり降ってくるとは…。困ったものでござるなぁ;」
「ね。どうしようかと思って、途方に暮れちゃった。」
「おろ;?何でござるか、その大きな包み;」
「前川先生がね、剣心と私に…って。」
「そうでござるか…。では、早く家に帰って二人で見よう。」
「ん・・・。」
そう言って貴方がさり気無く私の肩を抱いて
引き寄せてくれたとき
この師走の雨の冷たさに似合わない貴方の体温に気付いて
涙が出そうになった・・・
>>終
お題提供:かなみ様 2004,12,10