どれだけの時間が経っただろう。
彼は庭に出て、依然空を見上げたまま。
私に背を向けているから彼の表情は見えなくて
そんな彼に掛ける言葉も見つからなくて…
と言うよりかは寧ろ、掛けてはいけない様な気がして…
成す術も無く、ただただ彼の後姿を見つめるだけ。
あの人のことを想っているの?
想い出しているの?
胸がぐっと詰まる。
呼吸が辛い。
私じゃ・・・だめ?
やっぱり、私が貴方の側に居たいなんて思う事・・・高望みなのかな?
行カナイデ・・・
側ニイテ・・・
真っ白な世界に、紅い髪がふわりと舞う。
紅い髪の隙間から見えた紫水晶のようにキラキラと光る瞳と、視線が重なった。
「か・・・薫殿っ!如何したでござるか!?」
「え・・・?」
「何処か具合でも? おろ…;おろ…;; すまぬ、つい拙者ぼーっとして・・・」
あぁ・・・、涙。
知らないうちに、流れ出ていた。
無意識。
恐ろしい。
貴方の興味をこちらに向ける為に、無意識でこんな事をやってのけてしまうだなんて。
ごめんなさい、巴さん。
貴女に逢いに行った剣心を…私は卑怯なやり方で連れ戻してしまった。
でも、この人だけは譲れないの。
私も・・・この人が好き。
この人を愛しているから・・・。
「薫殿・・・?」
「何でも無いよ。」
私は笑う。
貴方の為に・・・私の為に・・・
「拙者は…大丈夫でござるよ。」
「え・・・?」
「今は・・・薫殿が全て」
「剣心・・・?」
「さ、何か温かいものでも・・・。」
背筋が凍った。
ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。
何時から気付いていたの・・・?
嫉妬でいっぱいだった、私の視線に。
貴方と彼女の繋がりには勝てる見込みが無くて・・・。
ううん、勝つとかそういう問題じゃないのよね。きっと。
涙が溢れる・・・。無意識に。
みっともなくて・・・。こんな私に気付かれたくなくて。
振り向かないで。
「本当に、仕様の無い御仁でござるなぁ。」
ふわり。抱きしめられて。
剣心の熱が、私を包み込んだ。
ほら、また貴方は私を甘やかす。
でも、温かい。
温かいから、甘えたくなる。
けど
「だめ…っ。剣心!私…嫌な女なの!嫌な事ばっかり考えて・・・」
「それは・・・拙者の所為もあるでござろう?」
「違う!剣心の所為じゃ・・・ない・・・っ。ごめんなさい…ごめん…なさ…」
貴方のその厚い胸板を押し返しても、貴方は一向に離れてはくれなくて
辛くて・・・涙が止まらなくて・・・
私はいつからこんなに弱くなった・・・?
貴方の口づけ一つで…あんなに高ぶっていた心臓がぴたりと落ち着くだなんて・・・。
外は・・・だんだんと白くなる。
でも・・・大丈夫。
雪は・・・冷たくて、辛いだけのものじゃない。
雪は・・・溶ければいずれ、春を呼ぶ。
ほら、こんなに温かい・・・。
>>終
お題提供:ソラ様
2004.12.16