カラン・・・カラララ・・・・


静かな空間の中に、篭ったような鐘の音だけが響き渡る。
周りには誰も居ない、その上神社自体も元より無人の小さな神社。







そんな神社に、夜中、彼が突然初詣に行こうと言い出した。
外は寒く、四方真っ暗闇。
ふわりふわりと、微かに雪も舞い落ちる。


「どうしてこんな夜中に?」

「うーん・・・二人きりの方が、良いでござろう?」

「え・・・?」

「ほら、いくらでも願掛けが出来るし。」

「あ、そう。」


そんな会話をしながら人気の無い道を通って、石段を登って、ここまでやって来た。
途中、「はぐれるといけないから・・・」と腕を組ませてくれたり。

こんな真っ暗な中、はぐれる訳が無いでしょう?
怖くて怖くてとても一人になんかなれやしないわよ。

時折空を見上げれば、そこは満天の星空。
たくさんの星が、きらきらと輝いている。
あの星屑が降ったら、どんな音がするのかしら?







何やら先程から一心に唸って…もとい、祈っている薫殿を横目に、薫殿の祈りが終わるのを待つ。
しばらくした後ふーっと息を吐いた薫殿が、そっと目を開けた。
そしてちらりと上目遣いでこちらを見て、ふわりと微笑む。


「剣心は何をお願いしたの?」

「拙者…でござるか?・・・・ちなみに薫殿は何を?」


ただ単に興味本位で聞き返しただけだったのに、薫殿の表情はひどく驚いていて。
かと思えば次の瞬間、パッと下を向いてしまう。


「…///笑わない?」

「笑わないでござるよ。」


あんまり薫殿が真剣にそう言うものだから、それだけで少し可笑しくなってしまって。
「もう笑ってるじゃない」と怒られ、笑いながら「すまぬ」と零す。


「お料理が上手くなりますように…って。」

「・・・薫殿、願いにも可能性の範囲と言うものが・・・」

「なっ///失礼ねっ!そんなに真面目な顔して言う事無いじゃないっ///」


暗闇で分からぬが、おそらく顔を真っ赤にして怒っているのだろう。
拙者の袖をぐっと引っ張って、千切れそうなくらいぶんぶんと振り回している。


「嘘でござるよ。」

「嘘に聞こえない・・・///そう言えば…剣心は?」

「おろ?」

「何をお願いしたの?」



そう言ってこちらを向いた薫殿の顔が、とても近くにあって。
視界には薫殿、手には薫殿の体温
時折吹く冷たい風が、漆黒の黒髪をたおやかに揺らす。
あぁ、そうか。
この瞬間
この瞬間に拙者は・・・


無意識に身体が傾いた。
薫殿の肩を包み込んで、そっと顔を近づける。

大きく見開かれた薫殿の目の中の自分と、一瞬目が合ったような気がして
目線を少しだけ逸らして薫殿の肩を引き寄せたとき、薫殿の掌がぐっと拙者の唇を塞いだ。



「こ…こらっ///誰も口付けろ…なんて言ってないわよ///」

「はほふほほ・・・」



この御仁は・・・



「・・・・・・」

「拙者は・・・薫殿がもう少し素直になってくれるように…と、お願いしたのでござる。」

「え・・・///?」



ぱっとこちらを向いた薫殿の頬を包み込んで、親指の腹で目の下をそっとさすってやる。
薫殿はくすぐったそうに身を捩って、それでも拙者の掌の上に自分の手を重ねた。

少し・・・焦りすぎたでござるかな。



「さ、帰ろうか。」

「え・・・」



薫殿の声は消え入りそうで どこか悲しげで
きっと拙者が怒っていると勘違いしているのであろう。


とりあえずは




「薫殿、手か腕。 どっちが良い?」



家へ帰って、ゆっくり身体を温めようか。




>>終

2005.3.9