「・・・;;///」



出先からの帰り道。
二人の間に何とも言えぬ、気まずい雰囲気が流れる。

私の手を引いて先を歩く剣心の表情は読めない。
それでも、手だけはしっかりと繋がれたまま。
そんな繋いだ手を離す機会を掴めないのは、きっと私が一人で反応しすぎて如何したら良いのか分からないから。

手繋ぐの、嫌じゃないのかな?

でも私が手に力を入れなくても引っ張られているという事は、 剣心がしっかりと私の手を握っていてくれているという事で。
嫌なら・・・握らないわよね?

自分に心の中でそう言い聞かせると、少しだけ繋いだ手に力を込めた。





「薫殿。」



「はい?」



「ずっと歩き通しで疲れたでござろう?少し休もう。」





返事をする間もなく少し強引に手を引っ張られて、進行方向を変えられる。
少し体勢を崩しそうになったものの慌てて歩調を整えて、ひたすら突き進む剣心に従った。


そうして連れてこられた古寺の石畳に、隣り合わせに腰を降ろす。
そこは元より無人ゆえに、周りには誰もいない。
そのかわり、とうに季節を過ぎたはずの真っ赤な椿が、今もなお立派に咲いていた。



「まだこんなに椿が咲いてる…。」


「うちの庭のものは、ほぼ落ちてしまったでござるからなぁ。」


「この間の雨がいけなかったのよ。桜だって盛りの時期だったのに、雨でほとんど散ってしまうし。」



頬をぷうっと膨らませて文句を言う薫を、剣心はにこにこと微笑みながらしかし何も言わずに見つめる。
そんな剣心の視線に気付いて少し恥ずかしくなった薫は、ぱっと口を抑えて視線を少し下に逸らした。



「な…なぁに///?」


「おろ?」


「どうしてそんなに、にこにこしてるの?」


「やっと薫殿が、いつもの薫殿らしくなってくれたでござるなぁ・・・と思って。」



そう言った剣心にぽんぽんと頭を撫でられて、薫の顔はまた一段と赤くなる。



「ち…がうの///そうじゃなくて…その…あの…;;き、気にしちゃって・・・///」


「・・・?・・・・あぁ!さっきの口・・・・」


「やーっ///言わないで!!」



さっきの口・・・・付け。
剣心が言わんとしたのは、それだ。

出先からの帰り道に他愛の無い話をしながらふと小路に差し掛かったとき、見てしまったもの。
それは若い男女の逢引現場。

幸いにもあちらに気付かれる事なくその場を去ることには成功したのだが、あとには気まずい空気が残るばかり。
とは言っても、剣心はさほど気にしていないようで、結局は私の空回りに過ぎなくて。

そんな余裕の無さが余計に恥ずかしくて、何も言えずにただただ俯いていたのだった。



「薫殿、顔真っ赤・・・」



くすくすと笑われて、いよいよ薫の顔は燃え上がりそうなくらいに赤くなる。
頬を三本指でなぞりながらけらけらと笑う剣心に何だか相当馬鹿にされているような気がして、
たまらず薫が俯いた顔を上げた。






「だっ…て!そんな事したことないから分かんな・・・・、っ///!!?」






目の前には剣心の顔。
唇には柔らかく、温かい感触。
そしていっぱいに広がる、剣心の香り。

彼の熱が伝わって、身体中に甘い痺れが走る。
少し角度を変えて再び押し当てられて、思わず小さな声が漏れた。



「か、薫殿;;!?すまぬ、つい・・・」


「え・・・?」



私の声に反応してふと目をあけた剣心が、真っ青になって慌てて私から退いていく。
そして行き場の無い両手を宙に漂わせながら、おろおろ言い始めた。



「何で・・・謝るの?」


「な、何でって・・・薫殿泣いて・・・」


「へ?」



ぱっと目の下に手を当てて、初めて自分の目から涙が溢れていた事に気付く。
瞬間に自分は男の人と…いや、剣心と初めて口付けを交わしたのだということが急に現実味を帯びて来て、
そんな意識はさらさら無いのに、ぼろぼろと熱く大粒の涙が零れ出した。



「おろー;;!?すまぬ、薫殿;;!!つい、身体が勝手に・・・」


「ち…がうの・・・嬉しいの・・・」


「え?」


「嬉しくて・・・何だか涙が止まらないのよぅ〜」



自分が最早何を言っているのかすら分からない。
けれども、必死に剣心の着物の裾を握って、言葉に出来ないこの気持ちを伝えてみる。
剣心は分かってくれたのか嬉しそうに微笑んで、私の涙を一生懸命拭ってくれた。



「もう少しだけ、此処に居ようか。」



優しい笑顔と、力強く温かい腕の中
言葉が涙に呑まれて、喉に詰まる。
だから必死に首を縦に振って、肯定の意思表示。
そんな私を見て、彼はまた嬉しそうに微笑む。

そして、甘い口付けをもう一度





>>終

御題提供:浅黄様
2005.4.20