「剣心! 起きて?」


「ぉ・・・ろぉ?」



重たい目蓋をこじ開けると、目の前に薫殿がいる。
しかもとびっきりの笑顔で。

薫殿に急かされてゆっくりと起き上がり、肌に纏わりつく長い髪をぱさりと後ろへ払いのけた。
瞬間、薫殿が真っ赤になって叫びだす。



「きゃーッ///剣心ったら!まだそんな恰好で寝てたの!?もぉ、早く服着て頂戴ッ///!!」


「おろ?あ、あぁ;;」



顔面向かって今日の着替えを投げつけられるのを避ける事も出来ずに、そのまま素直に顔面にそれを食らった。
薫殿の命令には背けないので、取り敢えず言われるがままにそれらに肌を通す。

ぼーっとしている拙者が面白かったのでござろうか、薫殿は急にくすくすと笑い出した。



「今日はお寝坊さんね。もうお昼近くよ?」


「え?拙者そんなに・・・?」


「いつも早起きなのに中々目を覚まさないから、珍しいなぁ。っと思って。」



ずっとここで寝顔を見つめていたのだが、中々目を覚まさないので、とうとうつまらなくなって起こしたらしい。

紐を口に咥えて、拙者の髪を櫛で梳かしながら自分の後ろで膝立ちになった薫殿がそう言った。
最近薫殿は、毎朝拙者の髪を結ってくれる。
それも、すごく楽しそうに。

薫殿に触れられるのは嫌ではないし、髪を結われる感触も中々心地良い。
なので大人しく、薫殿が結い終わるのをじっと待っている。



「どぉしたの?まだ眠い?」


「いや、何だか少し身体がだるくて。薫殿は朝から元気でござるなぁ。」


「今日はすっきり目が覚めたの。朝ご飯もちゃーんと作ったからね。」


「・・・昨夜が少し物足りなかったでござるかな?」


「ばっ///そ、そんなことありません!十分すぎるほどですっ///」



悪乗りした発言に真っ赤になった薫殿が少し乱暴に紐を結ぶと、髪が1,2本絡まって僅かな痛みが生じた。
「痛い」と言えば、即行「自業自得だ」と返って来て、二人して何故か笑ってしまう。

すると薫殿がおんぶのような体勢で、拙者の背中にもたれかかってきた。



「朝ね、起きて目の前に剣心がいると、安心して、幸せだなぁ・・・って思うの。
それだけで何だか元気が湧いて来るような気がして・・・」


「・・・・・・;;///」


「・・・・照れてるの///??」


「・・・・・・・っ;;///か、薫殿!早く朝餉を・・・」



薫殿が急に可愛い事を言うものだから、逆にこっちが焦ってしまった。
血圧が急上昇したような感じがして、視界がメラメラと蜃気楼のようにぼやけていく。

そんな時、急に薫殿が更に体重をかけて圧し掛かってきたので、ふと後ろを振り返ろうとしたとき
右頬に柔らかい何かが触れた。

それが薫殿の唇だと認識したのは、それから約10秒後。



「まだ眠たそうな剣心に、元気のおすそわけ」



そう言って微笑んだ薫殿はやたら可愛くて、年相応にも無く思いっきりときめいてしまう。



しかし、目が覚めたからにはこちらの番。


御礼は三倍返しが、世の常でござろう?





>>終

2005.5.7