「剣路ー!けーんじー!」
洗濯物の山を抱えて、きょろきょろと家の敷地内を見回す薫。
しかし剣路の姿はおろか、返事すら聞こえてこない。
「もう、どこ行っちゃったのかしら・・・?」
はぁっと一つ大きなため息をついた薫の背後に、さらに大きな洗濯物の山を抱えた人物がやってきた。
おろろと体勢を崩しながら、落ちそうになる洗濯物を何とか捕まえる。
「薫殿。剣路は居たでござるか?」
「だめ、どこにも居ないわ。また勝手に遊びに行っちゃったみたい。」
「まぁ、好奇心旺盛な年頃でござるからね。なに、この辺りの人たちは皆優しい。さほど心配する必要もござらんよ。」
にっこりと微笑みながらそう言われるものの、薫はどこか腑に落ちない様子。
しかしながら剣心はそんな薫の肩を井戸に向かって半ば無理矢理に押し、洗濯に取り掛からせる。
「さ、薫殿。先ずはこの溜まりに溜まった洗濯物を片っ端から片付けるでござるよ?」
「・・・はーい。」
そう言って山の中から一つを取り出すものの、薫の思考は明後日の方向。
水を張った桶の中に洗濯物を沈めたまま、ぼーっとしている。
「かーおーるーどーのー!」
「え?…あ、…はい;;ちゃんとしますー。・・・って、あれ?」
薫はぴくっと眉間に皺を寄せて、静めた衣服の衣嚢に手を突っ込む。
そして何やらごそごそと探った後、中に入っていたものを水しぶきが飛び交うのも構わず、がばっと取り出した。
「な…なにこれぇ〜?」
「おろ。まつかさに、小石。そしてこれは何かの実でござろうか?何やら他にもいっぱい・・・」
剣路の衣嚢の中には、何やら沢山の収穫物。
おそらく最近何処かへ出掛けて、出先で気に入ったものを喜んで溜め込んでいるのだろう。
薫は出てきたもの一つ一つを嬉しそうに地面に並べて、それらのものに見入っていた。
「何だか剣心みたいね。」
「おろ?」
ふわりと微笑む薫の口から思わぬ言葉が飛び出したため、剣心は驚いて薫を見やる。
「だって貴方もよく、かくしの中に色々入れたままにしてたじゃない。買出しのおつりとか…」
「そ、それは・・・;;」
「やっぱり親子って似るのね。ふふ、何だか嬉しいなぁ。」
小粒の瑪瑙を太陽にかざして、中で屈折する光を見つめながら本当に嬉しそうに語る薫に
剣心の胸の鼓動はいよいよ高鳴る。
思わず伸ばしそうになった手で袴の裾を少し大袈裟に払って、勢いよくその場に立ち上がった。
「拙者、剣路を探してくるでござる///」
「はぁ!?そんなこと言って、洗濯から逃げる気でしょう?こら、待ちなさい!」
「そ、そうではござらん!ただ…///」
「・・・照れてるの?」
「・・・///!」
真っ赤な顔を隠すかのように一生懸命そっぽを向こうとする剣心。
そんな剣心を見て、薫はまた嬉しそうに微笑んだ。
「やっぱり、二人で行きましょう?」
「・・・そうでござるな」
どちらからでもなく、ゆっくりと指が絡まりあう。
深い橙色の夕日が、二人の影を長く伸ばしていた。
>>終
2005.4.23