・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

いくら何でも、ちょっと遅いわよねぇ・・・;;


剣心が風呂場に篭ってから、約一刻半。
普段はそれほどまでに長風呂でない彼が、今日は珍しく長い。


まぁ、一応念の為・・・・


縫いかけの羽織をそっとちゃぶ台の上に置いて、ゆっくりと風呂場のほうへ向かう。

別に男の風呂を覗く趣味などないが、何分弥彦がまだ赤べこで働いているため、止むおえず。。。
自分に何度もそう言い聞かせて、風呂場の前で薫は大きく息を吸った。


「剣心?」

「・・・・・・・」

返事が無い。


「剣心ー!」

「・・・・・・・」

やはり返事が無い。




「もうっ!開けるわよ!!・・・・って、剣心ーっ!?」

「お゛ろ゛・・・・」


勢い良く開け放った風呂場の戸の向こうに薫が見たもの。
それは湯にのぼせて、浴槽にだらんともたれかかる剣心の姿であった。


「ちょ…剣心、大丈夫?しっかりして…;;」

「お゛ーろ゛ー・・・・」


薫の問いかけも虚しく、彼は真っ赤な顔でぐるぐると目を回している。
袖口でぱたぱたと扇いでやるものの、あまり効果はないようで。

そぉだ!


悩んだ末に薫の頭に浮かんだ秘策。


「ごめんね、剣心。ちょっとだけ我慢してね。・・・・・せーの・・・っ」



ざぱーっ!!!!!



「お゛ろ゛ーっ!?」



「あ、剣心!良かった…気がついたのね。」

「か…かかかかかかおるろの…。いま、せっしゃにいいい一体何を・・・?」


不思議そうに首をかしげる薫が両手で大事そうに抱える桶を見て、剣心の頭の中で全ての疑問が繋がった。
薫はのぼせた己を助けんとして、桶いっぱいの真冬の井戸水を頭からぶっ掛けたのだ。

全身の鳥肌と、震える歯が何よりの動かぬ証拠・・・





「もーっ!どぉして、のぼせるまでお風呂に入ってるの?」

「す…すまんでござる。少し考え事をしていて・・・」



まずいでござる・・・
先程の衝撃で、湯が温く・・・いや、どちらかと言うと冷たくなってしまった。
何とか風呂から出たいのでござるが、薫殿がここにいる手前出るわけにも行かぬし・・・。


はくしゅん・・・!!


濡れた身体が冷気にさらされて、寒気を催す。
そんな中堪らず飛び出たくしゃみに、薫ははっと我に返った。


「あ…っ///わ…私、もう一度お風呂焚き直してくるね。直ぐ焚くから、ちょっと待ってて///」


ガ コ ン ・ ・ ・


ガコン?


「な…なぁに?今の音・・・。」

「何でござろう…?」

「まぁいいや。待ってて!すぐ沸かしてくるか・・・・あれ?」

「どうかしたでござるか?」

「お…お風呂の戸が開かなくて…;;」



な ん で す と ! ?



「拙者が…」

「きゃーっ///待って待って;;上がっちゃダメっ///」

「あ…///・・・薫殿、一度しっかり閉めてしまってから、思いっきり開けてみては…?」

「いいかも!えーっと、じゃあ…」



が ら ら ら ・ ・ ・ 



カ ラ ン ・ ・ ・



「「え;;;?」」



「も…もしかして…」

「もしかすると…でござるな::」



さしずめ、先程の音はつっかえ棒が転げ落ちる音であろう。

ということは、つまり。
誰かが外からつっかえ棒を外してくれない限り、ここからは二人とも出られないという事で。


「おろ・・・。」


二人の空間に作られた、さらに狭い二人の空間。

吉と転ぶか、凶となるか。

誰かさんがつっかえ棒を外してくれるのは、いつのことやら?





>>終

御題提供:ナキ様
2005.2.12

続く…かも?