冬ではあるものの、珍しく暖かなある日の正午。
ぽかぽかと気持ちの良い縁側に、仲睦まじげに座っている男女の姿。

少女は既に夢の中へと落ちていて、男がその細い身体を後ろから包み込むようにしてうつらうつらとしている。
男の腕の中で気持ち良さそうに寝息を立てる少女の表情には、まだあどけなさが残っていて。

こんな少女が…と、男は何かを思い出した様子。
一人ふわりと微笑んで、ふせられた長い睫毛をそっとなぞる。


「寝込みを襲うたぁ、男らしくねぇなぁ。剣心よ。」

「さ…左之・・・;;誰も襲ってなど・・・;;」

「あ?んじゃあ、合意ってか?ふんふん、そうか。これでまた妙んトコで、タダ飯が食えるってわけだ。」

「ちょ…左之!それだけは勘弁;;!!」

「いんや、このネタで今日の昼飯が麦飯定食から牛鍋に変わるんでぇ。こんな機会逃す手はねぇ!」

「左ー之ー!それでこの間も薫殿が真っ赤になって、妙殿のところから帰って来たのでござるよ;;」


そう、この間。
久しぶりに妙殿と甘味処へ行くと言って嬉しそうに出掛けていった薫殿が、
何を吹き込まれたのか真っ赤になって帰って来た。
中々訳を話してはくれなかったがしつこく問いただしてみると、何やら良からぬ事を妙殿から吹き込まれたらしい。

拙者、あまりの衝撃に一瞬気が遠のいたでござる;;
妙殿…;;そんな話、齢十七の薫殿には刺激が強すぎでござるよ;;

あれから誤解を解いて、元のように薫殿が笑いかけてくれるまで何日かかったか…

しかし。
自分も薫殿に『そういった』対象内で意識されているのだと改めて確信して、少し嬉しかった面もあり。
良からぬ誤解に少しだけ便乗して、薫殿に触れたのも事実であり。





「男の一人思い出し笑いは、気色悪ぃぞ。」





・・・・まだ居たのか;;





「左之、くれぐれも妙殿に変な事は・・・」

「半分だけ聞いとくわ。」

「左ー之ー;;」

「じゃーなー!♪ぎゅぎゅぎゅ牛鍋〜♪」





だ め だ ・ ・ ・ ! !
左之があの状態になってしまっては、最早どうしようも出来ぬ…;;

風に靡く悪一文字がこれほど小憎たらしく見えた事は無いでござるよ;;





「まぁ、仕方ないか。」



何を隠そう事実であるし、今更隠す気などさらさら無い。
それにあの赤べこが自分と薫の話題で持ち切りになるのも、特別に悪い気はしない。



「すまぬな、薫殿。どうやら拙者、相当図太いようでござる。」



依然夢に落ちたままの薫の指をそっと包んで、剣心はふわりと微笑んだ。



薫殿が眠っている間は、襲うような真似はせぬよ。
眠っている間は・・・ね。

妙殿から吹き込まれた『大人の付き合い』というものは、そういうものでござろう?





>>終

御題提供:萌木様
2005.2.17