ほっと一息。
赤べこの束の間の休息時間。
この休憩が終われば、赤べこは夜の暖簾を店前に掲げて商売を再開する。
この休憩は言わば、一時休戦の蓄え時…というわけだ。
大抵の従業員はこの休憩を境にして交代するのだが、ここに一日中働きっぱなしの少年少女が一人ずつ。
「つっかれたぁ〜;」
「今日はいつもより朝からもお客さん多かったもんね。」
「あ゛ー;腰痛ぇ」
「だ…大丈夫?揉んだりしようか?」
「いらねぇよ。」
「そ…そう。」
赤べこの裏で妙の淹れてくれたお茶を啜りながら、庭先をぼーっと見つめる。
流石時代の最先端・牛鍋店舗という事だけあって、家もでかけりゃ庭だって相当広い。
神谷道場とどっちが大きいか微妙なところだな。
「燕ー」
「…なぁに?弥彦くん」
「お前、夜の部は接客出るなよ。」
「ど…どうして?」
「酔っ払いに絡まれたら、振りほどけねぇだろ。お前。」
弥彦はぴょんっと縁側から飛び降りて、「んーっ」と伸びをする。
腰の骨を気持ち良さそうにポキポキとならす弥彦の姿が何だか可笑しくて、
堪らず噴出した燕をすぐさま弥彦が睨みつけた。
「何だか弥彦くん、おじいさんみたい。」
「何だと!?もう絡まれても助けてやらねぇからな!」
「でも…私が接客出なきゃ、接客出る人居なくなっちゃうもの。」
そう言って微笑んだ燕の顔が丁度太陽と被って、目前に妙な感覚を巻き起こす。
「弥彦くーん、燕ちゃーん。そろそろ頼むわー」
「はーい。 さ、頑張ろ。」
そう言って伸ばされた手を素直に握り締める勇気はまだ無くて。
余裕のある男になるまでは、まだもう少し時間がかかりそうで。
「おぃーす・・・。」
取り敢えず、照れ隠しに妙な返事をしてみたり。
>>終
2005.1.16