太陽はてっぺんを通り過ぎ、徐々に西へと傾き始める。
だいたいこの時間になると、その日一日のやるべき仕事を一通り終えるので、少し空いた時間が出来るのだ。
そんな中縁側でぼんやりしていると薫殿が剣路を寝かしつけて、ゆっくりとこちらへやって来た。
「如何したの?少し疲れているみたいだけど。あまり眠れていない?」
「いや、そんな事はござらんよ。ただ・・・」
「ただ?・・・・・・きゃっ;;///」
隣りに腰掛けようとした薫殿の腰に手を回して、自分の膝の上に座らせる。
突然の事に体勢を崩した薫殿は、
少しよろけながらも横抱きにされるような形ですっぽりと拙者の足の間に身体を収めた。
「剣路が生まれてからは、薫殿とこの様に触れ合う機会が減ってしまったでござるなぁ・・・と。」
「ばっ///何言ってるの;;!昨日だって中々寝かせてくれなかったくせにっ///」
「おろ。そうでござったかな?」
「そうよっ;;///」
真っ赤になって俯きながらも、手だけはしっかりと背中に回して抱きついてくれる薫殿に
如何しようも無いほどの愛しさを感じる。
いつまでも気高く変わらない。
拙者の身体には十分に薫殿の香りが染みこんでいると言うのに、薫殿はいつまでも真っ白なままで。
そんな白い肌を夜毎晒されるからこそ、その肌を自分に染めたいという衝動に駆られる。
その想いの強さゆえ、薫殿にはいつも少し無理をさせてしまっているらしい。
「それに・・・薫殿は最近剣路ばかり相手にして、拙者の事を構ってくれないし。」
「なぁに、それ?ヤキモチみたい。」
拙者の胸に顔を埋めて薫殿がくすくす笑うと、その微々たる吐息が胸元にかかってくすぐったい。
身体にかかる薫殿の体重が妙に心地よくて、柔らかいその身体を自分の中に閉じ込めたくなる。
「じゃあせめて剣路が眠っている間だけでも、拙者の事構って・・・」
「ん・・・」
薫殿の後頭に手を添えて、小さく柔らかい唇をそっと口に含む。
そのままぐっと強く唇を押し付けると、薫殿の口からは僅かに声が漏れた。
必死に拙者の着物にしがみつく動作も、抱く手に力を込めるたびに震える睫毛も、全てが変わらず目の前にはあって。
唇を離した後に恥ずかしさゆえか視線をずらす癖も、相変わらず健在だ。
「薫殿。」
「は・・・ぃ///」
薫殿の下顎に手をかけると、薫殿は目を瞑ったままピクンと身体を震わせる。
目の下を親指の腹で優しくなぞって、拙者の身体にもたれかかる薫殿に再び口付けを試みようとしたその時。
じーっ・・・・
「おおぅ;;!?剣路;;!」
「え///!?きゃっ;;///」
「何やってるの・・・?」
何やら感じた冷たい視線の元を手繰れば、そこに居たのは昼寝をしていたはずの剣路。
手に持った掛け布団を引きずって、明らかに疑いの眼差しをこちらに向けている。
「け、剣路;;もう起きちゃったの?」
薫殿がおそるおそる剣路に尋ねかけると、剣路は掛け布団を更に引きずってゆっくりとこちらへやって来た。
瞬間、何故か後ずさる親二人。
そしてとうとう目の前までやってきた剣路に、恐れ慄いて思わずお互いに抱きつく。
ゆらり
剣路が揺れた。
何かが来るでござる!!
そう思って思わず目を閉じた瞬間、しばらくの沈黙が流れ、そしてふわりと膝の上に感じた僅かな重み。
「寝ちゃった・・・;;」
おそるおそる目をあけると、そこには薫殿の膝にもたれかかるように眠る剣路の姿。
どうやら単に寝ぼけてしまっていただけらしい。
「剣路は本当に薫殿が好きでござるなぁ。」
「でも剣路は貴方の事も大好きよ。」
「そうでござるかなぁ?」
「だって剣路、貴方とお箸の持ち方同じなんだもの。やっぱりちゃーんと見てるのね。」
「え・・・///そうなのでござるか?」
「あら、気付かなかった?私はいつも貴方の事見てるから、すぐに気付いたけれど。」
そう言ってふわりと微笑んだ薫殿は、ちゃんと一人の母親の顔をしていて。
何もかもが変わらないわけではないのだと、はっきりと気付かされた。
何かが変わっていくからこそ、生きる事に意味があるのだと。
そして薫殿は自分の中の変化に恐れもせず、確実に望む自分に近づいていく。
凛とした志。
むしろ変化を恐れていたのは、自分だったのかもしれない。
そう考えると、可笑しくて恥ずかしくて、ふと笑みが零れた。
時代は変わる、人も変わる---
でもどうか、心の強さだけは変わらないで。
自分の信じた事は必ず貫き通す、そんな薫殿の心の強さに
自分は心を惹かれたのだから
>>終
36000番を踏んでくださったゆーきさまへ。
リクエストは【一家の大黒柱、息子にヤキモチ!?】
2005.3.31