ぼうっと部屋の隅を眺めていると
何故かしら、あの日のことを思い出して
貴方が触れる感触に、全身の細胞がざわめき立つようで
一人赤くなった顔を隠すと
それを見た貴方は、意味ありげにふわりと微笑んでみせる。
その笑顔が全て見透かされているようで、少し苦手。
だって、貴方と目が合えば
その紫水晶のような綺麗な瞳に、思考も何もかも全て吸い込まれてしまいそうだから
は じ ま り の 合 図
ある晴れた日の正午。
風に乗って運ばれてきた鼻孔を掠める良い匂いに、居間にいた薫はふと作業をしていた手を止めた。
「剣心・・・」
「あ、薫殿。丁度良い所に来た。ちょいとこちらへ。」
「なぁに?」
「はい、口開けて。」
そう言って目の前で微笑む剣心が持つ菜箸に挟まれているのは、やはり薫の好きな里芋の煮っ転がし。
美味しそうな照りのついた剣心の煮っ転がしは、絶品である。
しかし。
く…口開けてって・・・///;;
「里芋の煮っ転がし、好きでござろ?」
中々素直に口を開けない薫に、怪訝そうな表情を浮かべる剣心。
好きだけど…///大好きだけど、でもっ;;
剣心の前で大口開けるだなんて、そんなみっとも無い真似…。
「す…好き・・・///だけど・・・;;」
あーっ!でも、出来たて凄くおいしそうだし。
食べたいけど…でも、大口は・・・;;
あたふたと一人考え込んでしまった薫にとうとう痺れをきらしたのか、剣心は煮っ転がしの下に掌を添えながら
それをずずいっと薫の口元へ押しやった。
「ほら、早く!!芋が箸から滑り落ちるでござる!!」
「ぅ・・・///」
乙女の事情もやはり食欲の前では勝てずに、かなり躊躇った末に大人しく口を開ける。
「よく出来ました。」
その言葉と共に口の中へ放られた煮っ転がしが、薫の口の中で叫びを上げた。
「あふいー!!!(熱いー!!!)ふぇんふぃん、あふい!!(剣心、熱い!!)」
「おろ!?すまぬ、熱かったでござるか?すまぬすまぬ。」
「ふーっ!!ふーぅ!!・・・・っ、すまぬじゃないーッ///舌火傷したぁ;;」
ヒリヒリと痛む舌を出して手で扇ぐ薫の肩を、剣心がそっとつつみこむ。
「け…けんひん?」
「薫殿。口元についてるでござるよ。」
「え///!?」
慌てて口元を拭き取ろうとした薫の手をすっと絡めとって、剣心はそのまま薫の口元に吸い付いた。
「・・・・・っ///!!?」
「…ちょっと甘かったでござるかな?」
「い…いいいいいいえ///!!とっても、美味しかったわよ///!!?」
「そうでござるか。それは良かった。」
吃驚した・・・///
熱い頬を抑えながらちらりと剣心を見やると、彼は何事もなかったかのように笑顔で家事に勤しんでいる。
うーっ///剣心のばかーっ///
「薫殿?」
「・・・何でも無い///」
「おろ。怒ってる?」
「・・・っ///」
「薫殿の煮っ転がし、山盛りにするでござるから。」
「いらな・・ッ・・くもない///;;」
「素直で宜しい、でござるよ。」
あーもー馬鹿馬鹿///
私って如何してこうなのよぅ;;
「薫殿。」
「なぁに・・・っ///!?」
振り返った先には、思ったより近くに剣心の顔があって
そんなつもりはまるで無かったのに、その紫水晶のような綺麗な瞳に吸い込まれた。
口を塞がれて、まだ微かに痛む舌を甘くなぞられて、最後に軽く音を立てて唇の先を吸われると
それを合図にして、まるで催眠術にかかったかのように膝がガクリと崩れる。
そんな薫の様子を見て剣心はその身体をひょいと持ち上げ、居間へと連れて行くと
ゆっくりとその場に薫を下ろした。
そして呆気にとられたままの薫に詰め寄って、唇でそっと薫の首筋をなぞり上げる。
「っ・・・///け…んしっ」
「何やら舌を扇ぐ薫殿を見ていたら、こう…なったのでござる。」
は い ・ ・ ・ ?
「ば…///馬鹿馬鹿ーっ///知らない、そんなのっ!自分で何とかしてよぅ///」
「うーん…でも一人で何とかするより、薫殿と一緒の方が…良いでござろ?」
「いやーっ///私そんなこと分かりませんっ///」
腕を押さえつけられてじっと見つめられると、抵抗する気力も無くなって
ただでさえそんな状態なのに、それなのに
そんなに、もの穏やかに微笑むなんて
反則よ・・・
「では、ほんの手解きを・・・」
そう言って覆い被さってきた剣心には、先程の煮っ転がしの匂いが染み付いていて。
今回の煮っ転がしの味は、いつもより少し甘めだったなぁ・・・
なんて一人考えながら、柔らかい唇の感触とともに目を閉じた。
>>終
ゆーきさんに、33000番もらっていただきました!
リクエストは『余裕緋村氏+微エロ仕様』
2005.2.20