この一年、本当に色んな事があった。

貴方と出逢ったあの冬からゆるやかに季節は巡って、2度目の冬を迎えようとしている。

貴方と出逢ってからの日々は、一日だって無駄に過ごした事は無かった。

何より私自身、笑う事が多くなったような気がする。

此処に貴方が来なければ、弥彦に…左之助、それに恵さんにだって会う事はなかったでしょうね。

ねぇ、貴方に話したいことが沢山あるの。

きっと今夜夜通し話しても…伝えきれないほどに。








お お つ ご も り の 夜








「というワケで、今晩此処に置いてください。」


柔らかい光が立ち籠める部屋の入り口でそう言うと、剣心は見たこともないような間抜け顔で私を見上げた。
その目は異物でも見たのかというほど見開かれ、何かを必死に訴えているような気さえする。

しばらく沈黙が続いた後、剣心はようやく開いたまま固まってしまった唇を震わせた。


「あ…か、薫殿。取り敢えず、中に・・・」


剣心の了承を得て、暖かい部屋の中へ足を踏み入れる。
冷たい空気の入り口を閉じて、布団の上に座っている剣心の隣りに腰を降ろした。


「薫殿の部屋は?」

「恵さんと燕ちゃんと妙さんが使ってるの。人数の限界が越えちゃったから、妙さんに追い出されちゃって・・・。」

「妙殿・・・;;」

「ん?」

「あ…いや、何も・・・;;」


剣心の体温で温かくなった布団に横になると、続いて剣心が横になりながら布団をかぶせてくれる。
彼の温かさと匂いに包まれる、この時が好き。

そしていつも私の方に多めに布団をかぶせてくれる。
優しい優しい彼の心遣い。

貴方が抱きしめてくれるだけでも十分温かいのに・・・。
貴方の体温と温かい布団の恩恵に肖っている私は、この上なく贅沢ね。

柔らかい光がゆらゆら揺れて、ふわりふわりと眠りの時を促す。


「薫殿。」


剣心の声が静かな部屋に響いて、手放しそうになった意識を慌てて掴み取った。


「なぁに?」


意識の裏側が少し朦朧としているものの、一人眠りに就こうとした事を悟られないように
何とかその言葉だけははっきりと返す。

見上げた直ぐ近くには剣心の真剣な眼差し。
思わず心臓がドキリと鳴って、視界が蜃気楼のようにぼやけた。


「や…やっぱり拙者、居間で寝るでござる!」


そう言った瞬間、布団から飛び出そうとした剣心の襟元を慌てて掴む。


「ちょ…;待って剣心!如何して?何で?」


掴んだ襟元を引き寄せて剣心を押さえ込み、もがく彼を何とか捕まえた。
いきなり部屋を飛び出そうとした彼の理由に不安を感じながらも、彼の目を見つめて問い掛ける。


「薫殿…。勘弁;今夜ばかりは保証できぬ;」

「はぁ?何言ってるのよ!私が此処で寝るのが、そんなに気に食わないの?」

「いや、そうでは無く…。その…あの、・・・あ!ほら、除夜の鐘が・・・」

「それが如何したのよ?大晦日だもの。除夜の鐘くらい・・・」


剣心が何を言いたいのか分からない。

こんな風に同じ布団で寝るのは、何も今夜が初めてではないのに。

何をそんなに焦って距離を置きたがるの?
一人でにどんどん広がっていく不安。

そんな不安に耽った瞬間を、彼は見逃さなかった。
一瞬の隙をついて彼は私の肩を包み込み、そのまま天地を引っくり返す。

事を解したのは、彼の吐息が降ってきた時。
紅く柔らかい髪がふわりと舞って、私の顔の両側に滑り落ちた。


「拙者・・・今夜は酒を飲みすぎた故、少し…酔っているでござるよ。」

「剣心でも酔うことあるんだ…」

「当たり前でござる;・・・で。その・・・;;今夜は…芯が弱っている。」

「それって・・・」

「薫殿に…酔った勢いで手を出すなど、拙者はしたくない。だから・・・」

「馬鹿・・・///」


彼の弁解を遮り、首に手を回して思いっきり抱きつく。
当然の如く彼はたじろいで、引っ付く私を何とか剥がそうと躍起になった。


「薫殿・・・;拙者の話、聞いていたでござるか?」

「馬鹿。剣心は大馬鹿よ。ばーか、ばーか。」

「薫殿っ///;;」

「それじゃあいつもは、どういった勢いで私に触れてくるの?」

「え゛・・・///;;?」



剣心の痛いところを上手く突いたのか…。
瞬間剣心の腕の力がへなへなと抜けて、私と剣心の間に存在していた僅かな空白が埋められる。

首筋には息遣い。
この身体全体に、彼の体温。

それだけでこの心臓はドキドキ鳴って、どうにかなってしまいそう。
言葉を詰まらせて何にも言えなくなってしまった彼の頭を優しく撫でて、言葉を続けた。



「別に如何だっていいじゃない、勢いなんて。そりゃあ次の日に剣心の記憶が無かったら、流石に落ち込むけどね。」

「そ…それは…;;」

「それに、私ちゃーんと剣心の事信用してるもの。剣心は酔った勢いで女の人を抱けるような人じゃないわ。」

「薫殿・・・」

「そういう所、吃驚するぐらいきちんとしてる。
さっきだって、そこまで言うほど酔って無いくせに歯止めかけたんでしょ?」

「薫殿の買いかぶりでござるよ・・・;;」

「さぁ、どうかしらね。でも私は剣心のそういう所、すごく好き。すごく…尊敬してる。」

「・・・っ///;;か…かお…る、殿っ;;」



いきなり剣心が腕に力を込めて起き上がった。
光に照らされて分かりにくいけど、剣心は真っ赤になっているようで・・・。

四つんばいになった彼の身体を支える掌が、少しだけ汗ばんでいる。


「薫殿、保証はせぬよ?」

「私だって少しもその気が無かったら、今夜わざわざ剣心の部屋になんか来ないわ。」


強張った表情が、穏やかに溶け始めた。
剣心の体重が再びゆっくりと、私の身体にかかっていく。
髪を何度も何度もなぞられて、いつのまにか剣心から目が離せなくなっていた。


「拙者、情けなすぎて泣きそうでござるよ///;;」


そう言った剣心の唇が、そっと私の唇と重なる。
角度を変えて押し当てられるそれは、柔らかくて温かくて…。

深い深い口付けの後に、口の中に残る強いお酒の味。
頭はまるで酔ったようにくらくらして、視界が一層ぼやけた。


「約束通り、ゆっくり年越しできるでござるな。」

「そうね。」




寒さ極まる冬の夜

耳に響くは除夜の鐘

篭る吐息は熱を帯び

静かに更けゆく

夜に候。




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木名瀬桜様に21000番もらっていただきました!
リクエストは『らぶらぶ年越し』